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佐倉 大 (北久保弘之)

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コミケなどで出す許可を貰ってない原画集は、なぜ制作は見て見ぬふりをするのですか?会社にもよりますが、原画の権利はほとんど会社にありますよね。原画集を出せる神経が分かりません。

根本的に勘違いをしています。制作会社には基本的に原画を二次使用する権利はありません。正確には一次使用後の「原画を保有する権利」は通常は製作者(委員会含む)にありますが、製作者と言えど作品製作の際の契約によって二次、三次使用に関しては別途の契約が必要で、作品の原画集出版に漕ぎ着けても原画集が売れなければ赤字になるので、よほどの話題作でなければ原画集を出して貰えないケースの方が多い事は、原画集が出る作品の数の少なさを見れば解るでしょう。で、以前にも書きましたが、二次使用の予定も無い原画を保管するのは維持費がかかるだけなので、殆どの場合は制作会社に(権利は関係無く)返却します。制作会社はアニメーターの人達が「買い取り」(著作者人格権以外の著作権を全て手放すので、後に作品がどれだけヒットしてもソフトが売れても一円も還元されない)で、原画単価以上のパフォーマンスを発揮してくれているのは解っているので、制作会社から推奨してる訳じゃありませんが、頑張って良い原画を描いてくれたアニメーターの人達には「立場上、公に認める訳にはいかないけれど、厳しい予算とスケジュールで素晴らしい原画を描いてくれた人が、その人の担当シーンだけピックアップして同人誌にして少しは金銭的なリターンがあっても、大人のルールからは外れるけれど、それを見ない振りをしてくれる程度にはアニメーターの事を大事にしてくれている」んですよ。頭さえ柔軟にすれば、権利者は売れ残って赤字になる原画集を出版しなくて済むし、アニメーターは原画単価以上の仕事に少しは金銭的なキックバックがあるし、そのアニメーターのファンの人達には喜ばれる、WIN & WIN & WIN の関係になって誰も損をしないハッピーな結果になると思いますよ。

アニメーター志望の21歳です。描きたいと思う絵や動きはたくさんあるのですが、今は全然絵がうまくないし、思い通りに描けないので「絵を描く」という行為自体もあまり好きではありません。アニメーターに憧れを持っているので、絵の練習をしてもっとうまくなれば絵を描くことが好きになれるかも、だからこのまま続けていこう、と思って練習を続けているのですが、一方でもしアニメーターになってもこんなんで続けていけるのか?と色々考えてしまいます。僕のような人間は絵を描くのは仕事でなく趣味でやることにしたほうがいいのでしょうか?北久保さんの率直な意見を聞かせてください。

あなたは絵を意識的に練習し始めてから何年くらい経ちますか?俺の個人的な経験則をお話ししますが、注意して頂きたいのは「あくまでも北久保個人の経験則であって、必ずしもアニメーター全般に当てはまる事じゃない」という点です。俺は15歳でアニメーターになりましたが、特に子供の頃から楽描きしてた訳でもないし、図画工作が得意だった訳でもないし、アニメーターの勉強をした訳でもありませんでした。近所の漫画好きの小学生の方がよっぽど上手い絵を描いている、くらいの本当にゼロベースから業界に入ったので、そりゃもう大変な苦労をしました。アニメーターになって約5年、原画を描き始めてから約4年弱くらいの頃でも自分の思う通りには絵や動きが描けません。それでも経験値は身につくので、俺の原画を褒めてくれる人が何人もいらっしゃいましたが、褒めて下さった方々には本当に申し訳無いんですけど、何の慰めにもなりません。自分が思う通りに描けない事は俺自身にしか解らない事なので、ずっと苦しい状態です。それでも描き続けて、ようやく少しは思う絵や動きが描ける様になり出したのは、その3年後、つまり約10年間も葛藤し続ける訳です。多分、俺より絵が下手でアニメーターになった人はいないと思いますし、俺より学習能力が劣る人もいないと思います。自信がないから描かないんじゃなくて、自信がなくても描くという意思の強さの問題だと思います。絵を描く仕事をする人間は、どれほど自信がなくても描くしかないんです。一度でも手を引っ込めたら 二度と絵を描く気力を維持する事が出来なくなります。恥ずかしくても、他の人の迷惑になっても、絶対に手を引かない覚悟さえあれば、積み重ねた時間は必ずあなたに微笑みかけてくれます。10年は耐えられない、というならば、あなたの席は他の人に譲るべきです。

中村プロで何かあったんですか?

すいません、もう一ヶ月以上前に「もう時効だと思うヤバいエピソード教えてください」という質問を頂いてたんですが、この答えと一緒にさせて下さい。元々、俺がアニメーターになったキッカケは「アルバイトニュースにアニメーター募集と広告が出てたので」応募というか、履歴書持って面接に行ったんですが、本来アニメーターって技術職なので、そんなバイトの募集する訳ないんですよ。で、当時の俺がアニメーションに関して知ってる知識というと「アニメには絵を描く人と色を塗る人がいる」くらいしか知らなくて「色を塗るよりは絵を描く方が面白いだろう」程度の感覚だったのね。で、中村プロに面接に行ったら、動画のクリンナップ(清書)を描かされたんですが、そんなの未経験者が綺麗な清書なんて出来ない訳ですよ。なのに、何故か合格して中村プロに入る事になったんですけど、とにかくスタジオ内の雰囲気が何かオカシイ。動画の中割りの仕方なんて全然教えてくれないし、社内の先輩達は中村社長の事を「基地外」って平気で言ってる(無論、本人には言わないですが)し。只、一週間に一回くらい「ミーティング」と称して三階の中村社長の自宅にスタジオ内の全員が呼ばれるんです。で、一体 何をミーティングするかというと、毎回変わるんですけど、仕事と全く関係無い事を話すんです。「お前は誰か好きな女の子は居るのか?」とか聞かれるんですよ。で、俺は特に居なかったので「特に居ません」と答えるのですが、ここからが地獄編の始まりで、「そんなハズは無い、お前くらいの年齢だったら好きな女の子の一人くらい居るだろう?」「イヤ、居ませんよ」「嘘を言うな、居るハズだ」「本当に居ないんですよ」「アイドルとか誰か居るだろう」「居ませんってば」。と、こういうやり取りが約2時間も続くと、さすがに神経が参って来て「あー、もうエースをねらえ!の岡ひろみが好きです」とか、何か適当でもいいから答えないと延々と質問責めが続くんです。で、先輩達が「お前、基地外の左手の小指 チャンと見た事あるか?」って聞くんです。見たら、左手の小指の第二関節の所に薄っすらと傷があって、先輩曰く「◯◯の仕事の時に、制作に「絶対にスケジュールは守る!」って言ったんだけど、結局 間に合わなくて、制作が「絶対に守るって言いましたよね?」って言われたら「責任を取る!」と言ってイキナリその場にあったカッターを掴んで左の小指を切ったんだよ。皮一枚繋がってて切り落とすまではいかなかったんだけど」とか教えてくれなくてイイ事を次々と教えてくれて。先輩の中で特に酷い目にあったのがD先輩で、ある日、スタジオ内でタップが一本 無くなった時に例のミーティングで「お前が盗ったんだろう!」「イエ、盗ってません」「イヤ、お前しかいない。盗ったんだろう!正直に言え」「盗ってません」「お前が盗ったんだろう!」というやり取りが、休憩も睡眠も無く一週間続いて、もう精神的にボロボロになったD先輩は「私が盗りました」って言って、許して貰ったんですが、後日談があって、スタジオ内にレコードプレイヤーがあって、みんな好きなレコードを持ち寄って聴くんですが、やはりある日、社長がそのレコードの中から一枚取り出すのをたまたま見たスタッフの人に「これはあいつ(D先輩)が盗った事にするから内緒だぞ!」って言われたとか。で、スタジオ内で1番古株の先輩が教えてくれたのが、劇場版 惑星ロボ ダンガードAの時に、中村社長が作画監督をヤってるのに、スタッフクレジットには「南条文平」という謎の名前が載ってるんですが、その理由が当時のスタジオで例のミーティングがあった時、社内の女性スタッフに「お前には狐が憑いている!その狐を堕とす!」と言って、スタッフ全員でその女性スタッフを囲んでコーヒーをかけたりしたのが新聞に載って、ダンガードAのクレジットにはペンネームを使わざるを得なかった、とか聞かされて、とてもじゃないけどこんな会社に居たくないと思って 就職してから僅か一ヶ月で辞めたんですよ。で、一応、その先輩の話が本当かどうか、図書館に行って当時の新聞を調べたら「子供の夢を作る会社で夢を壊す」とかいう見出しで本当に載ってて、何かもうかなりアレなんですけど、ココまでで中村プロであった嘘の様な本当にあった話の、まだ25%くらいです。さすがにもうかなりシンドいので、あとの75%はいずれ機会があれば呟きますので、とりあえず今はもう勘弁して下さい。

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宮崎監督、富野監督、押井監督などは表立ってインタビューに答えているので、話自体は面白いものの難有りということは素人でもわかるのですが、その下で働く個々のアニメータースタッフのほうが素人は知らないだけで実はメンドクサイ、難有り率は高いんでしょうか。監督はいわば中間管理職なので、上と下の両方に気を使わなければならず、アニメーターとして仕事していたほうが下からの突き上げがない分だけ精神的には楽なものでしょうか。

えーっと、だいぶ以前に呟いた話ですけど、俺の知り合いが逆襲のシャアの原画を請けて、間に合わなくなって「手伝って」と言われたので、業界内ではよくある話なので、手伝いにサンライズに入って原画を描いてた時の事です。ある日、俺は面識が無かったんですけど、富野監督に呼ばれて、監督の部屋に行きました。で、俺が描いた原画を前に、富野監督が「君は海軍式の敬礼を知らないのか?」と聞かれたので「知りません」と答えたら、監督が「いいか?海軍では狭い甲板の上で敬礼をするので、上げた肘は横に広げたりしない!肘は自分の身体に付けながら敬礼をするんだ!」と言われたので「あのー、それは絵コンテに書いておくか打ち合わせの時に指示して下さい」と答えたら、富野監督が「最近の若い者は固定概念でしか考えない者ばかりだ!いいか?」と言いながら、何か人物の顔らしい丸チョンの絵で、横向きの顔と正面向きの顔を描いて「君ならこの顔の中割りを何枚 入れる?」と聞かれたので「それは、そのカットに求められる演技の内容によって中枚数は変わります」と答えたら、富野監督が「イヤ・・・それはそうなんだが、普通に一般的には中割りを何枚入れる?」と聞くので「まぁ、平均的には中3枚くらいですが」と答えたら、富野監督が満面の笑みを浮かべながら「そうだろう?違うんだ!それは演技の内容によって変わるんだ!」って言ったので「あのー、今、そう答えたんですけど」と言ったんですけど全然聞いてない感じで「最近の若い者は固定概念で〜」と繰り返していました。俺はと言えば、アニメーターとしても仕事をするのに富野監督からリテイクを貰ってこそ一人前だ!とスキップしながら「わーい」って喜んで机に戻りました。本当にあった愉快な話です。

宇宙戦艦ヤマトの作画ではアニメーターにヒロポン配って不眠不休で働かせていたって本当でしょうか?

ヒロポンは、とっくの昔に製造禁止になっているので間違いです。正しい薬品名は「リタリン」です。現在の日本では薬事法の改正で、専門の医師が検査して、睡眠障害が計測器のデータで証明された患者の人にしか処方されませんが、10年ほど前には抗うつ剤として処方されていた薬です。アメリカでは「優等生のドラッグ」として、徹夜で勉強する為に使われたりしましたが、この薬には「食欲を抑制する作用がある」ので、昔は痩身剤(つまり痩せたい人がダイエットに服用する)として処方されていたんですよ。で、ファースト・ヤマトの制作中にプロデューサーの西崎氏が、六本木とか外国人が多い場所の処方箋薬局にベンツで乗りつけて「今、アメリカから来たご婦人がいるのですが、処方された薬を無くして困っているんですよ」と嘘を吐いて、その「リタリン」を大量に入手して、ヤマトのスタッフに「みんな、この「ビタミン剤」を飲んで頑張ってくれ」と騙して飲ませる訳です。で、知らずに「リタリン」を飲んだスタッフはみんな「ウヒョー、眠気が覚めたー!」って言ってガンガン徹夜する訳です。この話は生前の石黒昇さんから直接聞いた話ですけど、石黒さん曰く「何が酷いかって、それ以降は制作が、スタッフが徹夜する事を前提にスケジュールを組んで来やがって、もう大変だったんだよ」って仰っていました。

「押井守全仕事」という本の中で北久保さんが語っていた、劇場版パトレイバーを見たらもの凄く面白くて思わず押井監督に電話かけて「やれば出来るじゃないですか!」って言ったエピソードをもっと詳しくお願いします。

(′A')マンドクセーので惜しいさんが「O」、俺が「K」で、電話の会話をどうぞ。
K「惜しいさん、解ってたけど、演れば出来るじゃないですか」O「まぁな」K「てゆーか、五本に一本くらいこーゆーの創っといた方がいいですよ」O「その辺は大丈夫だ。一本創っとけば五年は保つ」K「惜しいさんにしてはかなり王道っぽいですね」O「イヤ、違うんだ、本当のラストはチョッと違うんだ」K「何で違ったんですか?」O「それがだな、北久保、信じられるか?ゆうきくんに絵コンテを直されたんだ」K「えー!」O「いいか?監督が描いた絵コンテにリテイクが出たんだぞ ⁉ 」K「イヤ、それは直して正解なんじゃないですか」O「・・・なんだとっ!」
だいたいこんなやり取りでした。

全然納得いく原画が描けず、上手い同期の原画を見るたび悔しくて悔しくて心が折れそうです。どうしたらモチベーションを保てるでしょうか?数年頑張ってきましたがそろそろ辛いです

同期に敵わない相手がいる時のシンドさは、誰よりもよく解ります。業界歴は俺の方が長いですが、同時期に専門学校に行ってた井上俊之と「Gu!Gu!ガンモ」で遭遇した時は俺の人生死にたいランキング第二位でしたが、しかし、あなたが相手にすべきは同期の同僚ではありません。自分です。自分が今、描ける限界までアクセルを踏み込んでいるならば、誰か他の人の目に止まる事もあるハズです。「◯◯さんと比べて〜」という比較の話じゃなくて、あなたが描いた仕事を褒めてくれる人がいるならば、それを心の支えにして、あとは「ここまで描けるハズだ!」と要求する自分との闘いです。ガンガって続ければ絶対に成果は出ます。上手い人と比べても意味は無いです。自分の描かなければならない動きだけを目標に腕を磨いて下さい。

当時のことを知らないのですが、『天使のたまご』と『映画キャプテン翼』は本当はどっちがヒットしたのですか?

んな事、聞くまでも無いですが、聞かれたので当時の話を。トゥギャまとめにもなってますけど、前に呟いた通り、俺が「天使のたまご」を降ろされる前、まだレイアウトとか描いてる時にふと気になって、惜しい監督に「惜しいさん、この作品って一体誰に観て貰いたいんですか?」って聞いたら「年頃の女の子に観て泣いて欲しいんだ!」って言ったから、俺は「そりゃこんなアニメを観せたらみんな怖くて泣きますよ」って言ったんです。その後、俺は「天使のたまご」から降ろされたんですが、当時のまだガイナックスが出来たての頃、俺やもりやまさんやあんのさんやお貞や真宏や樋口真嗣くんや山賀や摩砂雪や赤井さん達みんなで、惜しい監督の舞台挨拶があるので、冷やかしに早朝の初回上映を観に行ったんですが、映画館に向かう途中で、若い女の子が映画館の前にいっぱい並んでて「イヤ、まさか いくら何でも」とか思ってたら、その女の子達の列は違う映画館に並んでて、それがちょうど「キャプテン翼」の列だったのね。で、結局、年頃の女の子達は「キャプテン翼」に涙してて、惜しいさんの「天使のたまご」の館内にはアニキャラの紙袋を持ったむさい男達がちらほらする状況の中、最前列に陣取った俺達が惜しい監督の退屈な前口上にブーイングをしたりヒャッハー!したり、という事で、結果はもう解れ。

アニメミライ本年度は無いらしいですが、アニメミライが業界に与えたものって北久保さんの実感としては何かありますか?また、アニメミライについて北久保さんはどのような印象を持っているのか教えてください

えーっと、先ず言っときますが、俺も仕事でアニメミライの作品を創るかもしれません。しかし、もし関わるとしても、それはあくまでも仕事だからです。で、アニメミライが業界に与えたのはぶっちゃけ「混乱」です。みなさんの夢をぶち壊す様な事を言いますけど、元々、国民の税金を使って「アニメ業界の人材育成」を目的にスタートしたプロジェクトですが、とにかくレギュレーションが厳し過ぎてスタッフも現場も保たないくらいタフ・オーダーなんですよ。業界歴三年以内の新人達を集めて、ベテランが描き直したりしちゃいけないという条件で、専用のスタッフルームが必要で、就労時間も決まってて、タイムカードを押すのは構わないんですが、残業はNGで、原画期間が確か三ヶ月だったかな?それで他社の作品と比較対象される訳で、その時にはクオリティー以外に作品の面白さまで審査される訳で。通常業務をこなしてる会社の中でそんなプロジェクトをブチ込んだら、殆どの会社はスタッフのスキルが高まる前に疲弊しますよ。更にぶっちゃけると、色々な黒い噂が絶えないんです。アニメミライ用に他所の会社から既に上手い新人をヘッドハンティングしたり、とか、管理組織の中で使途不明金が発覚して組織が分裂したりとか、さすがに金額までは言えませんが、ダークな話が絶えない。俺が個人的に思っている人材育成のアプローチは「過去の作品をリメイクする」という方法です。これならば、ビジネスにはならないし、完成した作品が元の作品と比べて技術的に上回っているか下回っているか一目で解るし、原画を描く新人にも優れた作品の模倣をする訳だから、短期間で高い効果が期待出来ます。今のアニメミライは「あわよくばシリーズ展開可能なトレーラーかデモリール作品」に成りがちで、それは国民の税金を使ってやるべきか?という疑問符が拭えないんですよ。

ダディ宮崎、富野、押井(敬称略)の御三方は珍エピソードやドン引きエピソードばっかり目立ちますが、心温まるようなエピソードはないんでしょうか。

惜しいさんが、まだI.Gが国分寺にある時に、国分寺駅からスタジオに向かう途中で話してくれたんですけど、惜しいさんは一度 離婚しているんですが、前の元奥さんとの間に娘さんがいらっしゃるんです。で、惜しいさん曰く「娘の誕生日に、プレゼントをねだられたんだ」と。で、俺は「良かったじゃないですか」と言ったら、惜しいさんが「娘にねだられたのはトトロのセル画だ!うる星でも攻殻でもないんだ!この俺が、娘の為にわざわざジブリに行ってトトロのセル画を貰って来る、この屈辱がおまえに解るか!」って言ってました。心がホッコリする話ですね。

>事実上 今の環境まで改善してくれたのは、声優さん達の行動なのよ。 このお言葉の意味を詳しく教えて頂きたい

マジレスすると、アニメーション制作が低賃金労働である事と同時に、金食い虫である事は解りますよね?これって別に 今に始まった事じゃないんですよ。ディズニーでは1941年にアニメーター一斉ストライキが起きてるし、東映動画社で高畑勲監督やダディ宮崎監督が中心になって労働環境改善の為に組合運動してるんですが、全部 失敗したんですよ。理由は、せっかくスポンサードに賃上げ要求しても、その度に「へっへっへ、ウチならもっと安く作れますぜ」っていう会社が現れて、業界の足並みが揃わなかったの。で、アニメ全体の予算が少なければ当然 声優さんのギャラも低いままだし、記録媒体で販売されてもロイヤリティーが発生しない声優さん達が一斉にストライキをして(故 山田康夫さんが中心で)、やっと制作費が3〜4百万円 上がったんですよ。

京アニの響けユーフォニアムが現実のカメラを使ったようなボケなどを利用した絵作りなんですが、他のアニメスタジオがやらないのは手間の問題ですか?響け!ユーフォニアムの被写界深度が浅すぎる。過去の京アニ作品との比較 http://nuryouguda.hatenablog.com/entry/2015/06/17/183426 、ダメ金ならぬダメレンズの収差で映し出す「響け!ユーフォニアム」と京アニの空間描写が尋常じゃない http://sazanami.net/20150705-sound-euphonium-kyoto-animation-shooting-process/ こんなんです

こういう映像表現が可能になったのは、アニメーションの制作現場にコンピューターが導入されたここ10年くらいですけど、制作会社にコンピューターが導入されたのは1990年代の話です。では、何故、こういう映像表現が最近になって多用される様になったか?というと、アニメーション制作とひと言で言えないほど、各部署の作業内容の足並みを揃える事が困難を極める共通意識で成り立たっていたからです。コンピューターが導入される以前の制作工程は、各部署の責任職の人がそれぞれの作業内容について、キチンと責任を取る(取れる)事がそもそもの大前提で、つまり、監督の采配に合わせて各部署が作業をして、それがキチンと画面に反映されるという事が大前提だった訳です。原画や動画の線画もセル(ロイド画)の色指定も美術監督が描いた背景も、それを撮影する撮影監督も、全員が作品制作の初期からそれぞれの素材を可能な限り忠実に再現する為にところが、20世紀末にコンピューターが導入されてからこちら、原画や動画が描いた線画、色彩設計が決め込んだ配色、美術が丹念に描いた背景などが、コンポジットの段階で、演出や監督が元々の作業打ち合わせで指示した内容をかなりの自由度でその場の気分で殆ど自在に変更する事が可能になってしまったんですよ。そりゃ監督は良いかも知れませんが、モニターの画像を見ながら「ここはもう少し青系統の色味にして」「ここの背景はもっとボカして」「このキャラクターの後ろの人はピントを甘くして」などなど、画面を見ながら後乗せサクサクの加工を施す様になってしまったんですよ。勿論の事、それで優れた映像表現が出来れば良い・・・訳が無いです。如何にレスポンシビリティーが良くなったからと言って、打ち合わせの時に目指すべき映像の方向性も示さずに、後からそれぞれの素材を仕上げた作業者の仕事を蔑ろにする行為に他なりません。一流の美術監督さんならば「撮影段階でここまでボカすんだったら最初から指示されていればチャンとボケ背景を描くのに」、色彩設計さんならば「ここまで色味を変えるならば打ち合わせの段階で指示してくれたらキチンとそういう配色で指定するのに」などなど、コンピューターがもたらす夢の様な部分ばかりがスポットを浴びて、制作のチームワークは最悪という作品が頻発したのが2001年以降のアニメの作業現場です。生憎、TVシリーズではありませんが、ギリギリで20世紀に間に合った「BLOOD THE LAST VAMPIRE」を制作した経験者としたら、15年 経っても最新の作品がまだこのレヴェルかと、暗澹たる想いです。これは製作費とか制作期間の問題とは本質的に違う話です。共同で分業しないと成り立たない、その各スタッフの作業に対する尊敬の念を忘れた制作責任者の問題です。今現在、多くの作品の各部署の責任職の人達が「どうせ後から弄るんでしょ」というある種の厭戦感で作業をしているのを見ると、本当に辛いのと同時に「何で15年も前にハードルをクリアして、少なくとも問題を解決する一つの方法を示した事すらフィードバック出来ないのか」というやり切れなさだけです。最後に誤解の無い様に言っときますが、決して「BLOODだけが成功例だ」などという驕りはありません。BLOODとは違った方向でキチンとした成功例はあります。但し、その割合いはあまりにも少ないんですよ。

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コミック攻殻機動隊1.5にSAC14話「全自動資本主義」の原案プロットが載っていて「これは北久保氏と2人で進めていたが(神山?)監督のものになり修正されて残念」とありますが、何かあったのでしょうか?

その質問にお答えする前に、こちらの回答をお読み下さい。
https://twitter.com/lawofgreen/status/429931409361629184
↑これは本当の事です。なので、これからお答えする内容は、決して神山健治監督の作品を批判や中傷する類いの事ではありません。神山監督の作品のファンの方にも、攻殻機動隊S.A.C.のファンの方にも、俺にはそれを批評も批判も出来る資格が無いし、そもそも観ていない作品の評価や悪口は何の説得力もありません。では、これから質問にお答えします。何かあったか?といえば、ありましたありました。時系列に沿ってお話しします。当時の俺は、まだI.Gに在籍していましたが、攻殻機動隊のTVシリーズを制作する事になった事は社内にいたので聞いてはいましたが、その段階では俺は全然 関わっていませんでした。ある日、I.Gの石川光久社長から「北久保、TVの攻殻機動隊の中で、一本、お前に演出を演って欲しい」と言われました。その時に社長から「監督は神山さんだけど、何て言うか、喩えるならば新ルパンの中で宮崎さんが演った「アルバトロス」とか「さらば愛しき」みたいな、「北久保の演出ココにあり!」という感じで請けてくれ」と、奇妙な注文を受けました。そうは言われても、監督する時とは違って、俺の演出スタイルは「出来る限り監督の望む様に演出する」のがデフォルトなので、先ずは監督の望む攻殻機動隊の方向性を聞いてみようと思いました。あとで解った事ですが、石川社長が何故 奇妙な注文をつけたかを知るんですけど、それはまだ先の話です。で、とりあえず、神山健治監督と打ち合わせをしたんです。「監督は、今回の攻殻機動隊を どんな方向(スタイル)に創りたいんですか?」と尋ねた所、監督は「イヤ、原作の漫画通りに創るつもりです」って言われたので、俺は単行本の第一巻を開いて「では、このフチコマのネコニャン口(くち)は?」と尋ねたら 監督は「それは出しません」と言われたので「では、こちらのタコチューは?」「それも出しません」「では、このモブキャラの中のアンナ・プーマやユニ・プーマは?」
参考↓
http://www.animevice.com/uni-puma/18-25016/all-images/84-153879/429385/83-237609/
「それも出しません」「では、このトグサの顔面に縦線が入ってるのは?」「出しません」「では、このバトーの口がウェーブ(波)状態は?」「出しません」
「じゃぁ全然漫画通りじゃないじゃないですか」
「イヤ、他のスタッフとも話してますけど、漫画通りに創ります」って言われて、俺の頭の中ではどんなスタイルの攻殻機動隊なのかよく解らない状態で、とりあえず演出する事になったんです。で、その時点で、TVシリーズ用に士郎正宗さんからかなりの数のプロットが提出されている事を知り、その中から俺に渡されたのが「全自動資本主義」だったんです。プロットはプロットなので、まずはこのプロットを脚本にしなきゃならないので、脚本の作業に入った時、監督のイメージが解らなかったので、仕方なく、士郎正宗さんに連絡を入れたんですが、そこで士郎さんから聞いた話が「実は、TV版の攻殻をスタートする時にI.Gで、石川社長と神山監督と松家プロデューサーと僕(士郎さん)の四人で打ち合わせをしたんです。その時に「基本的に神山監督の自由に演って頂いて構いませんが、このシリーズの中の一本だけは 僕と北久保氏に(演らせて)下さいね」と言ったんです。で、社長も監督もプロデューサーも全員「解りました」と許可を取ったんですよ」って教えて貰い、そんな裏の事情があったから石川社長が奇妙な注文をつけたという事を知った訳です。俺の知らない所でそんな四者面談があったとは。まぁ、俺は士郎さんの作品は好きだし、尊敬もしてるので、別に腹が立つとかそういうんじゃなくて、むしろそこまで推して下さった士郎さんに感謝しますが。そこから先の脚本作業は当然 俺一人で練り込む訳です。プロットのアイディアを活かせる様に、更に面白くなる様に、必要な取材や調べ物をして行きました。で、俺の脚本が上がったので、先に士郎さんに読んで貰い、士郎さんから二〜三点の直しを指示されて、それを反映させて脚本が完成したんですよ。で、上がった脚本を監督に提出して、約一週間くらいしてからだったと思います。監督に呼ばれて脚本段階での打ち合わせをしたんですが、その時、神山監督から言われたのは「正直言って、今、上がっている脚本の中では 北久保さんのが一番 助かってるんですけど」と、前振りがあってから「でも、本読み(その作品に参加しているスタッフで、特に脚本や演出を担当する人達で脚本を読み合って内容に関して意見を交わす打ち合わせの事)の時にみんなで話したんですけど、この◯◯邸(このお話に出て来るお金持ちの家)の前に止まってる車のボディーに「クローバー銀行」ってロゴがペイントされてるの、みんな「普通 銀行の社用車にロゴとかペイントするかぁ?」って」と、脚本の本筋とは関係無いディティールにツッコミを入れられて、チョッと目眩(めまい)を感じながら「いいですか?俺がそんな初歩的な事を取材してないと思うのは勝手ですけど、勿論「現実に銀行の社用車にロゴがペイントされてる」事は取材で確認済みですが、もし仮に銀行の社用車にロゴがペイントされてなくても、このシーンでは「クローバー銀行」とロゴを「入れるべき」だという事が何故 解らないんですか?「クローバー銀行」とペイントされた車を見た瞬間 視聴者の方が「あ、銀行の車が止まってる」と一目で解るのに、ロゴを取っちゃったら、その場に止まってる車が誰が乗って来た何処の車かどれだけの段取りが必要になるのか解らないんですか」と、別に怒ったんじゃなくて、呆れて説明したんです。その後、一事が万事 この調子で、絵にすれば解る事を一つ一つダメだしされて、それでも俺としては、出来る限り監督の望む方向にと思って 士郎さんや俺の出したアイディアが潰されていくのを我慢しながら、監督から言われた設定のラフスケッチを描き続けたんですけど、せっかく描いた設定のラフが、一度はOKが出ても 後から後から「やっぱりこれは止めて下さい」って直しを出されて、さすがにこれ以上続けたら士郎さんや俺の参加する意味が無いし、そんな映像を演出する為に士郎さんに指名された訳じゃないので、プロデューサーの松家くんと二人で打ち合わせをしました。その時に俺が言ったのは「松家くん、プロデューサーの仕事をしてくれ。プロデューサーの仕事って何だ?それは作品を守る事だろう?この作品は誰の作品だ?神山監督の作品だろう?このまま続けたら、必ず俺と監督は衝突する。松家くん、言っとくが俺は職場放棄はしない。悪い事は言わないから「俺を降ろせ」。今がプロデューサー判断が必要な時だ」と告げてから、一週間後に松家くんから「あの時、すぐに北久保さんの言う通りにすべきでした。申し訳ありません、この作品から降ろさせて頂きます」と。俺としては、こんな簡単な判断に一週間もかかる事に辟易しつつ、せっかく指名してくれた士郎正宗さんに申し訳

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押井監督って団塊の世代が嫌いなんですか?

惜しいさんは団塊の世代が嫌いなんじゃなくて「羨ましい」んですよ。惜しいさんはギリギリで全学連や安保闘争に間に合わなかった事に対するルサンチマンが凄くて。どのくらい凄いかを物語るエピソードを惜しいさんから直接 聞かされたので、紹介しますね。惜しいさんが高校生の頃、自分達にも何かの運動(フィジカルな意味じゃないです)が出来るんじゃないかと思い立って、校内に友人1人と一緒にピケ(バリケード)を張って立て籠もったらしいんです。で、その話を聞いた俺の頭の中では凄え疑問があったので、惜しいさんに質問しました。「あのー、その、友人と二人で学校内に立て籠もって、いったい何を主義 主張したんですか?」と。そしたら「北久保、何故 過去の学生運動がことごとく失敗し敗北したのか、解るか?」と。「イヤ、解らないです」と言ったら、惜しいさんが「それは「テーゼを掲げた」からだ!主義を持ったが為に彼らは敗北したんだ。だから、俺達は「一切の主義を主張しない」事を主義にしたんだ!」と。もうちょっと、俺の頭の中は軽いパニック状態になったので「あのー、それで、何も主張しない、という運動?は、何日くらい続けたんですか?」と聞いたら「一晩だ」と。俺としては、惜しいさんに付き合わされた友人の方が気の毒でしたが、この人と一緒に立て籠もる程度にはバカだから仕方ないかと思いました。凄いですよね。何かチョッとあまりにもアレすぐる。

北久保さんの中で、服の描き方、シワの描き方や動きが一番上手いアニメーターはどなたでしょうか?

服のシワねぇ、上手い人がいっぱいいらっしゃるんですけど、原理に忠実という意味ではやっぱり梅津泰臣さんですね。梅ちゃんの描く服のシワを観て「あー、そっか!服のシワって服と肌の間に出来る空気のパイプなのか!」ってやっと気づきました。

Ask.fmで話したこと以外で中村プロのやばい話教えてくださいお願いします

やれやれだぜ。話しますか。えーっと、前回までの粗筋は(′A')マンドクセーので以下のリンクを読んで下さい。頭に「http://」を足してね。
ask.fm/LawofGreen/answer/111264484047
まぁ、そんな会社ですから速攻で辞めた訳ですが、辞めた際に、先輩達が、そりゃもう色んな怖い話を聞かせてくれるんですよ。頼んでもいないのに。一番年輩の方は、過去にも一度中村プロを辞めた事があったらしいんですが、その後に「その方の実家の郵便受けの中に犬の糞が入れられてた」とか。また、ある先輩は、俺が在籍した僅か一カ月ですが、その中でも多少の仕事を教えてくれた人なんですけど、その人は、中村プロでは「井上さん」と呼ばれていた方なんですが、中村プロを辞めたあと、その「井上さん」のアパートに動画の仕事を見せて貰いに行った時の事です。「実は、北久保には教えた事はないけど、俺の名前、井上じゃないんだよ」と。「えーっ!ペンネームとかですか?」って聞いたら、そんな話じゃなくて「俺の本名は◯◯っていうんだけど、俺、中村プロにいた時に、社長の命令で、もう業界中の制作会社やスタジオに無言電話や嘘、デタラメのイタズラ電話をかけさせられて。だから、もう本名は名乗れないんだよ」と。何つーか、怖いというか酷いというか惨いというか。で、その「井上さん」が「おまえも気をつけた方がいいぞ」って言われたんですが、まだその時は気づいていなかったんですよ。例のミーティングとか言って中村社長の自室に集められた時に、ブルーの分厚いバインダー(約4〜5cm)三冊にギッシリ詰まった書類の束に。もう勘の良い人は解ったと思いますが、そうです。合わせて約15cmくらいある、まとめてブン殴ったら凶器になりそうなその書類の束は「過去から現在まで、中村プロに就職面接した際の履歴書」なんですよ奥さん。当然、その束の中には俺の履歴書も入っている訳で、蛍。まぁ、当時の俺は全然 ノーガードのまま、三カ月後 ネオメディアにど新人として入れて頂く事になり、毎日 動画が上手く描けなくてヒーヒー言いながら中村プロの事を忘れて仕事をしてたんです。そんなある日の夜の事です。俺の実家に一本の電話がかかってきて、俺の名前を言って呼び出されて、電話に出たんですよ。ちょうどその頃に、TVシリーズの「あしたのジョー2」の放送前のセル画が盗まれる事件が起きた頃の話です。電話に出たら、全然 知らない女性の方が「北久保弘之さんですよね、私達は、学生のアニメのサークルの仲間ですけど、私達の間で「あしたのジョー2」のセル画を盗んだのは、あなただという噂を聞いたんですけど」って。寝耳に水とはこの事です。はぁ↑って感じで「あのー、全く身に憶えが無いですし、そもそも、あなたは何で俺の名前と電話番号を知ってるんですか?」って問いただしても「イヤ、あなたが盗んだのに間違い無い」って何度も何度もしつこく繰り返すので「とにかく俺は知りませんから、俺がセル画を盗んだ証拠があるならば警察に届ければいいでしょう!」って言って電話を切ったんです。その日以降は、数日おきに「あなたが盗んだ」って何度もしつこく電話があり、ようやく「あー、そうか!これが例の「気をつけろ」の意味か!」ってやっと気づきました。で、俺の実家の表に公衆電話があるので、俺の兄貴に「悪いんだけど、次に俺に電話がかかってきたら、表の公衆電話から「この番号に電話をして」。普通に呼び出し音が鳴ったら直ぐに切って。もしも話し中でも直ぐに切って」って頼んでおいたんですよ。で、件の電話がかかってきたので「兄貴、お願い!」って言って。チョッと経って兄貴が戻ってきて「話し中だったぞ」と。勿論、俺が渡した電話番号は「中村プロの番号」です。で「しつこいぞ!」って言って直ぐ電話を切って、今度は俺が速攻で表の公衆電話から中村プロに電話をかけたら、案の定、呼び出し音がしたので直ぐに叩き切った訳ですよ奥さん。まぁ、それを境に数ヶ月〜数年おきに実家にイタズラ電話がかかってくる訳です。俺は家族には「知らない相手が俺を呼んでも直ぐに電話を切ってね」とお願いして、実家を出てスタジオに寝泊まりする様になりました。これで中村プロのアレな話はだいたい半分くらいです。そうです。石田敦子さんの青春漫画「アニメがお仕事!」の元ネタが、実際に身に降りかかったというお話でした。あー、疲れた。

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デッサンはどのように取り組めばよいでしょうか!

絵を描く際に使われる技術の中のひとつがデッサンですけど、アニメーターを目指す人達には「今はデッサンよりもクロッキーに力を注いで下さい」と指導しています。その理由は「絵を描くお仕事の中で、アニメーターに必ず求められるのはスピードだから」です。ぶっちゃけデッサンなんて、時間制限が無ければ大概は形になるんですよ。でも、デッサンが狂っていない絵を描くのに30分も1時間もかけていたら、自分の絵を描く速度が低いアベレージに固まっちゃうんです。クロッキーで絵を描く速度を速めておけば、デッサン力なんてあとから身につけられるんですよ。

アニメーターさんがレイアウトで背景を描く時に、だいたいパースをとると思うんですが。それなりに描き込む必要がある場合って、紙の外まで消失点とかきっちりとるものなんでしょうか?よく本とかでみるレイアウトって割りとざっくり描かれているものもあるような気がするんですけど。やっぱりよほどの事では無い限りカンで描いてしまうものなのでしょうか?・・・・でも上手いですよね・・・。

消失点があまりにもレイアウト用紙の外側の遠い位置にある時の、チョッと手抜きのパースの取り方があります。例えば【/ \】← こんな感じに上の彼方に消失点がある場合は、レイアウト用紙の上方の狭いパースの中に、適当に幾つか等間隔に点を打っとくんです。で、下方の広いパースの中に、狭い方と同じ数の点を、広さで計算して等間隔に打つんです。で、上の狭い方の点と、下の広い方の点を直線で繋げば、大雑把に「消失点からパースを引いた様に見える」ガイドラインが出来るので、それを目安に描けば、結構 ゴマカせられます。ちなみに、大友さんがAKIRAの漫画連載中に、隣の部屋に押しピンを刺して、そこから糸を引っ張ってパースを取ってました。

"「アニメーター以上に絵が上手い」故 今 敏監督"の、ドローイングに関する類まれな才能を伺わせるエピソードをお伺いすることはできませんか

以前、仕事中に、今さんと沖浦啓之くんが小学生時代の話をしていて、図画工作の授業でどんな絵を描いていたかという話題になった時 今さんが「あのさぁ、やたらとパースとか奥行きの正確な絵とか描かなかった?」と言ったら沖浦くんが「あるある、自転車の前輪と後輪のパースとか計って描いてた!」と答えて、そうだよなーとか言いながら二人が笑い合っているのを 周りのアニメーターがドン引きしながら聞いていました。

画力の頭打ちの要因には何があると思いますか?

簡単に言うと妥協です。どんな仕事でも、長く続けていれば「もうこのくらい描いておけばいいだろう」って、自分自身に諦めさせる要因は幾つでも挙げられます(スケジュールの問題、ギャランティーの問題、他の人の作業内容と見比べた時のギャップの問題などなど)が、そういう要因を是認する訳じゃありませんけど、様々なエクスキュースに対して「もう無理して頑張らなくてもいいや」って、向上心を失った時が描ける絵のピークで、あとはそのレヴェルの劣化コピーしか描けなくなります。決して劣悪な条件の仕事に対して全力でやれと言ってるんじゃなくて、チャンとした条件の中で外因は関係無しで、自分が本当に何処まで描けるのか挑戦する意欲が無ければ、技術の進歩はあり得ません。

素人の脚本家が陥りがちな、注意してりゃ失敗しない才能以前の技術的問題があれば下さい。

注意というか、極 当たり前に「その環境に遭遇したその人物の立場で物事を考える事」が出来ていない人が多いんですよ。以前に絵コンテを描いたゲーム中のイベントムービーの部分なんですけど、あるキャラクターが、自分が留守している間に兵士達に家を焼かれて、兄弟の長男のそのキャラクターが、弓矢で射殺された亡き骸二体を見て「・・・弟よ・・・」って言うんですよ。そのシナリオを打ち合わせで読んで、プロデューサーとかゲームディレクターとかシナリオライターの人達 全員に「何ですかこの台詞は!弟が兄に対して「兄貴」とか言う事はあっても、普通の兄弟の長男が死んだ弟達の「名前を呼ばない」ってどんなキャラクター設定してるんですか!」って叱りました。

寄生獣というアニメが、漫画では120点のものをアニメで80点で作られた感じなんです。アニメから見た人には素晴らしいアニメに見えるかもしれませんが、漫画を見ていると正直作者独特のクセだったり上手さが出ていないのです。 1.見るからに低予算で、映画を作るからアニメも作るかという印象なのですが、割りと漫画好きの中では有名な寄生獣でも予算を確保するのは難しいのでしょうか。そこはプロデューサーの力量次第なのでしょうか。 2.一番気になるのが音楽です。BGMが酷く物語にあってないのですが、そういう場合は音響監督なりが岩波さん等と比べて優秀ではないということでしょうか。 非常に失礼な質問で申し訳ないです。

えーっと、実は俺はアニメの方の「寄生獣」って全く観ていません。理由は後述しますが、仮にあなたの採点通り、原作が120点でアニメが80点というのが当たってたと仮定(観てないので実際は解りませんが)して、これは批評とか批判とか擁護とかではなくて、推論です。その採点で正しい作品制作をしたんじゃないでしょうか。当然の様に漫画とアニメは媒体が異なる事は理解 出来ますよね。点数としてではなくて、アレンジという意味で、手塚治虫先生の「ブラックジャック」のOVA版アニメと同じ事をやろうとしたんじゃないかと。出崎さん監督、杉野さん作画監督のアニメ「ブラックジャック」って、手塚治虫先生の作中では「ひょうたんつぎ」とかが出て来るでしょう?アニメ版には「ひょうたんつぎが出て来そうもない」演出、作品創りをしてます。でもアニメの「ブラックジャック」を観て「手塚キャラと似てない!ひょうたんつぎが出て来ない!」って怒る人って殆どいなかった訳で。で、ぶっちゃっけ漫画の「寄生獣」って、20年前の作品じゃないですか。リアルタイムで漫画を読んでいた年齢層をメインターゲットにしたら、今 オンタイムでアニメを観る視聴者層とはギャップが生じるのが当たり前ですよ。表現としても、媒体の違いから自ずと控えざるを得ない。で、俺の推論ですけど、アニメの制作スタッフが狙ったのは「漫画原作を読んでない層に向けて創り、興味を持った人が原作を読んだ時に更に驚愕する」って落とし所なんじゃないかと。うーんと昔の話ですけど、白土三平先生の漫画「カムイ外伝」をTVアニメ化した「忍風カムイ外伝」って、もう当然の様に子供向けにアレンジしてある訳ですよ。で、アニメの「忍風カムイ外伝」を観たお子様が、大人になって白土三平先生の「カムイ外伝」を読んで驚愕する訳です。エクスキューズではなくて、アニメ版で演るべき事はキッチリと演って、その上で今の中学生くらいの人達が原作漫画を初めて読んだ時の感動を台無しにしない作品創りを落とし所にしたのでではないか?と思う訳です。無論、原作ファンがガッカリする事も、批判を浴びるのも、覚悟の上で創ったんじゃないかと。冷静に考えてみて下さい。15歳の頃にリアルタイムで原作を読んでいたならば、今はもう35歳になる訳で、その人達が満足する様な表現が現在の表現規制の状況下で可能なのか?つまり、アニメ版「寄生獣」は、原作漫画を読んだ事が無い人達に向けて意図して創られたんじゃないかと。勿論、これは俺の個人的な推測で、実際は全く違うのかも知れません。何故、そういう推測をしたのかというと、平松くんのキャラクターを観て、更に「ミギー」の声を女性の声優さんに演じてもらっている段階で「あぁ、これは原作漫画世代はサブターゲットなんだろうな」って感じたからです。20年前の岩明均先生の絵柄を今のTVアニメに忠実に再現したら、原作ファンだけで楽しむ作品にしかならないから、本当に批判を覚悟して創られたんじゃないかと思う訳ですよ。

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パースについて、素人がよく勘違いしている認識があれば教えて下さい。

1番多い勘違いは「消失点からパースを取れば「正確な絵」になる」と思い込んでるケースです。絵を描いてる方で「消失点から正確にパースを直線で引いてるのに、何故か不自然な感じがして困惑した」経験のある人は多いハズです。不自然に感じる原因は「パースを消失点から直線で引いてる」事です。人間の眼という物は「カメラほど不自由な低機能じゃない」んですよ。カメラならば、引いて撮るテレレンズから、寄って撮るワイドレンズに「いちいちレンズを交換しないと思った通りの映像が撮れない」んですが、眼には「視点を変えるだけでテレレンズからワイドレンズまで裸眼で見る事が出来る」んです。そして「レンズと同様に人間の眼にもレンズ歪みが生じています」。なので、パースを消失点から正確に直線で引いてる絵を観れば不自然に感じるのが当たり前なんですよ。雑誌などのワイドレンズ写真で「パースが湾曲していないのは「ワイドレンズのパース歪みを補正するレンズフィルターを使用しているから」です。ちなみに、カメラのレンズ歪みは人間の眼球歪みとは「歪みの度合いが違う」ので、絵が上手い人は「カメラのレンズ歪みではなくて人間の眼球歪みにパースを補正した絵を描いています」。

絵が上手くなるためには模写をするというのは分かりましたが、良い絵コンテが描けるようになるにはどうすればよいのでしょうか。

過去に、絵コンテに関する基礎講座を呟いてますので、良かったら読んでみて下さい。トゥギャッターのまとめのリンク貼っときますけど、まず、順番としては逆になりますが、最初に「イマジナリーライン」という言葉を解説する事から呟き始めました。
http://togetter.com/li/77534
これは前後編の最初のリンクです。ここに、どりあんくんがトゥギャッターまとめをもっと解り易く参考の動画まで作成して下さったので、こちらのリンク貼っときます。
http://win-daria.com/productions/20101217_272.html
で、トゥギャッターまとめで絵コンテ基礎講座を呟いたら、結局、Part 4 まで呟く事になりました。以下のリンクがその最初のリンクです。
アニメ監督佐倉大(北久保弘之)氏による「絵コンテ基礎中の基礎講座」Part1
http://togetter.com/li/108129
で、Part 1 〜 Part 4 まで読んで頂ければ書いてある通り、故 今 敏さんや沖浦啓之くんの絵コンテをどれほど読んでも「絶対に絵コンテを上手く描ける様にはなりません」。断言出来ます。安彦良和さんや大友克洋さんの絵コンテも同様です。絵コンテに必要なのは高い画力じゃないんです。必要最低限の情報です。自分がまだ「絵コンテを上手く描けない」と自覚しているならば、士郎正宗さんが描いた「BLACK MAGIC M-66」の絵コンテが良い参考になります。さきに名前を挙げた方々に比べても決して画力が低い訳じゃない、その士郎正宗さんが「絵コンテ段階の何処に絵を描き込んで何処をラフで済ましているか」が「勉強するお手本として相応しい」と言ってるんです。
ブラックマジックM66絵コンテ集 (Comic borne)
http://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/4915333302/
凄え、Amazonで¥300円以下でこんなに参考になる絵コンテ集を売ってるとは!最後に、もう少し時間がかかりますが、俺も自分が描いた絵コンテ集を、みなさんに観られる形でリリースする予定です。その時は宜しくお願い致します。

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ありがとうございます。士郎正宗さんの「ブラックマジックM-66絵コンテ集」はどこが他の絵コンテ集と違って参考になるんでしょう

士郎正宗さんのブラックマジックM-66絵コンテ集は、士郎さんが監督しているので、美術設定を兼ねてる箇所は絵コンテの書き込みが多いんですけど、特に士郎さんが設定を描く必要が無い箇所は、例えば人物の顔を十字線で済ませるとか、とにかく「必要最低限の情報しか描いていない」んです。他の絵コンテの全て、とは言いませんが、とかく絵コンテ集を出す様な絵コンテは、絵コンテオンリーの完成度を高める為に過度に絵コンテの絵を描き込み過ぎなんですよ。「絵コンテ」なんだから、人物の顔なんか別にレイアウトの時に描けば良い話なのに「売り物としての絵コンテ集」用に「絵コンテに必要無い情報」を描き過ぎなのが今、一番多い絵コンテ集の流行り(?)なんですよ。中には本末転倒で「絵コンテ集を出すから絵コンテの絵を描き直す物」まであります。絵コンテ集の見栄えを良くする為です。イヤ、それはもう流石に違うだろうと。買いたいのは実際に作業に使った絵コンテであって、絵コンテ集用にわざわざ絵をクリンナップした物じゃないぞという様な、絵コンテ集として販売する事が目的の絵コンテ集が本当に多いんですよ。士郎さんのブラックマジックM-66絵コンテ集は、完全に作業の為の最低限の情報しか描いていません。そこが(それでいて絵コンテとして高度な内容が書かれている事が)士郎正宗さんの絵コンテ集をお薦めする理由です。

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