オリンピックって今やってますけど金銀銅メダルですよね?あれが11族なのは偶然ですか?それともわざとそうしたものなんですか?

オリンピック期間内にお応えできずに申し訳ないです……深読みして調べてみましたが、行き詰まったのでとりあえずのFAを出しておきます。長々と書きましたが、できるだけ易しく書いたので目を通していただけると嬉しいです。
まず偶然か恣意的かですが、定められた当初は「偶然」でした。第一回オリンピック(アテネ)が開催された時代(1896年)には既にメンデレーエフの周期表は認められていましたが(1875年に認められた)、当時の周期表はⅠ~Ⅷまでしか族が存在せず、金銀銅が同族であるという認識はありませんでした。なので金銀銅が周期表から取られた、というのはありえないことです。
調べてみてわかったことですが、そもそも第一回アテネオリンピックでは「1位に銀メダル」「2位に銅メダル」と、金メダルは使われていないようですね。これについては「最初から金メダルを作る予定だったが、財政難で作れなかった」「そもそも銀と銅しか考慮していなかったが、後に3位まで表彰することになって銀より高価な金を1位のメダルに据えた」などいくつかの説があるようです。しかしどの説でも、当時の価値が金>銀>銅の順番であったことがこの並びの由来になっていることは確かなようですね。
金銀銅の三金属がメダルとして選ばれた理由としては、まずひとつは「金銭的な意味で、価値があるものだから」、もうひとつは「色が違うため順位・価値の違いがわかりやすい」などが挙げられていました。前者については金銀銅が貨幣として使われていたことに由来し、後者についてはそもそも銀灰色以外の色をした金属が金と銅ぐらいしか存在しないことに関係があります(厳密に言えば、銀灰色以外の色のついた金属には当時作れるものだけでも青銅や錆鉄などもあるのですが、これらはありふれすぎていて安っぽいため使われなかったのでしょうね)。
前者の貨幣利用に関してさらに見てみましょう。ある金属を貨幣として用いるためには、それそのものの価値と、それから加工しやすさの二点が重要です。まず金銀銅に価値が生まれた経緯ですが、これは「金銀銅が単体で出土しやすい」ことに由来するのではないでしょうか。つまり、地面をほっていると金やら銀やら銅は、そのまま金属の姿で出てくるのです(ふつう金属は化合物の状態、つまり「鉱物」の状態で出てきます)。これが太古の人の目には美しく見え、これらの金属の価値が高まったのだと思います。また、単体で出土しやすいということは同時に「加工しやすい」ということでもあります。鉱物の状態で見つかるとその鉱物から金属を取り出す必要がありますし、混合物や合金は組成(混ざってる度合い)に依って融点が変化したりするので加工が困難です。こういった理由から、金銀銅は貨幣としての価値を持ったのではないでしょうか。
余談ですが、「ある金属元素が単体状態で出土しやすいかどうか」は、高校化学でも習うイオン化傾向を見ることでも理解できます。イオン化傾向が小さい元素は文字通りイオン化しにくく、これは化合物を形成しにくいということとほぼ同じことです。イオン化傾向の表を見てみると(みんなも見てみてね)、大きい順に......Cu、Hg、Ag、Pt、Auという風に並んでいます。このなかでHgは液体、Ptは白金族鉱物(白金族元素を多く含む混合物。白金族元素は性質が似ているため混ざりやすい=単体として出土しづらい)として出土するので、単体で出土しやすく硬貨にできる金属は、順にAu、Ag、Cuという並びになるわけです。単体で出土しやすいとはいえ、そもそも地球の元素埋蔵量はAu<Ag<Cuなので、価値はAu>Ag>Cuとなります。
さて、では金銀銅のみっつが全て小さいイオン化傾向を持つのは偶然なのかというと、これは偶然ではありません。Au、Ag、Cuの電子の充填の仕方が同様であり、またこの電子の充填(f14d10s1)が軌道の遮蔽効果などの影響でイオン化しにくいものであることに起因します。
ところで、「電子の充填の仕方が同様」って、つまり現代の周期表でいうところの「同族である」ってことなんですよね。はい、戻ってきました。オリンピックメダルに使われた元素が全て11族であるのは、偶然であるようで、実は必然だったのですね。
これでお話は全てです。偶然というべきか、必然というべきか。身近なものから歴史に入って、歴史から化学に入って、やっと帰ってきました。お疲れ様でした。楽しかったです。