安倍首相が立憲主義を否定されましたが、これについてどう思われますか?

 これはいくつかのレベルで考えないといけませんが、少なくともあの答弁で「立憲主義を否定」というほどのことはいえないと思います。国家権力を縛る「だけではなく」、それに加えてもっと国のかたちとかヴィジョンを書いていこう、というのがこれからの憲法だ、ということであれば、立憲主義にすぐに反するとはいえないでしょう。自民党改正案にしても一見したところ、各種の人権について制限的な規定が目立つとはいえますが、それでも立憲主義を正面から否定するようなものではありません。
 
 というかそもそも立憲主義とはなんぞや、という問題もあります。最広義には憲法に基づいて国家のあり方、政治のあり方を定めるというものですが、さすがにこれを否定することはないでしょう。もう少し近代的な意味、たとえば、1) 国家権力のあり方(統治機構)を定める、1-1) 各権力の分割によるチェックアンドバランスの仕組みを整える、2) 基本的人権の尊重のあり方を定める、などを考えるとしても、自民党改正案がどれかを骨抜きにしようとしているわけではありません。自民党改正案は「加憲」的な要素が強く、こうしたものにプラスしていろいろ盛り込みたい、というものだと思います。そこに立憲主義に反するようなものがあるかというと、単に無関係なものが増えた(それは現憲法にもいろいろある)というのがせいぜいでしょう。国民の義務が増えたことをもって立憲主義に反するという批判もありますが、それは「憲法は国民から国家への命令である」という理解を硬直化させているようにも思えます。現憲法にも国民の義務はありますし(あれはあくまで国家の義務だと解釈するやり方もありますが、あまり素直なものとは思えません)。
 憲法尊重擁護義務が国民にも拡張されていることを問題視する意見もありますが、これは憲法の名宛人という点でもう少しクリティカルです。「憲法は国民から国家への命令」という一般的な理解だとおよそ矛盾したことになりますね。しかし、その理解も別に自明なものではありませんし(現憲法でも、私人間効力論など考えると微妙)、より広い憲法思想史の文脈においてみても、憲法というのはそうした国民→国家という一方的な関係を定めるものではなく、社会全体を「統合」していく動態的なプロセスそのものであるといった理解も有力な流れとしてあります。別にこれ自体は危険な保守反動というわけではまったくありません。
 自民党改正案や安部首相の憲法観を批判するのは議論を活性化させるために望ましいと思いますけれど、そこで持ちだされている「立憲主義」のイメージがどうも貧困というか、あえていうと中学校の公民の教科書に載っている程度のものでしかないのを残念に思います。もう少し豊かな内容のものとして理解しておかないと立憲主義のそもそものポテンシャルも生かせないと思いますし、また逆に、そうした立憲主義もいつまでも金科玉条のものとして守らないといけないわけでもないですので、「立憲主義に反する」というだけで何か批判するのは危険です。立憲主義とはそもそもどういうもので、それは何のために必要か、という議論がもっと深まることを願います。

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