今最新の正義論はどんな論者がどんな話をしているのですか?

 国内だとここで書いたような感じですかね。まぁ、バラバラ。
 http://ask.fm/tkira26/answer/107455038951
 
 世界的に見てもそんなに変わらず、グローバル・ジャスティス(世界正義)論は相変わらず人気です。地球規模で格差を是正したりするような正義はありうるか、それをどんなふうに正当化するかなど。
 具体的な論者としては、既に翻訳のある人だと、地球規模での功利主義を考えるピーター・シンガー、(リベラルな)国民国家の役割を重視するトマス・ネーゲルやディヴィド・ミラー、ロールズ正義論を地球規模に応用するトマス・ポッゲやチャールズ・ベイツ、先進国の構造的責任を問題にするアイリス・マリオン・ヤングといったところ(分類はいい加減なので、関心のある方はそれぞれの名前をぐぐって著書を直接ご覧になってください)。あとは、アレン・ブキャナン(Allen Buchanan)とかいった大物がいますが、まだ翻訳は出ていないようです(そのうち何か出るでしょう)*1。
 正直このへんの議論は理論から実践まで幅広い話になりますし、いわゆる「反グローバリズム運動」みたいなゴリゴリとしたものもたくさんあって、なかなか追いかけられていません……。
 
 あとは、わたしが一応、専門的に取り組んでいるテーマである世代間正義論*2 も最近どかどかと本が出ています。こっちはなぜか有名人があんまり参戦してくれなくて、日本での紹介もあまりない(というか、ある程度はグローバル・ジャスティス論と重なっているところもあります)。こちらの最近の議論状況のサーヴェイとしては、吉良貴之「世代間正義と将来世代の権利論」(愛敬浩二編『人権の主体』法律文化社、2010年)がありますので、ご関心があればご覧いただけると幸いです。
 そこで明示的に取り上げていない論者で最近注目している人としては、現在世代「内」の各年齢層のあいだでの正義のあり方とつなげて考えているデニス・マッカーリー(Dennis McKerlie)や、現在世代と将来世代で功利計算のあり方を分けるハイブリッド功利主義を提唱しているティム・マルガン(Tim Mulgan)など。マルガンはこうした問題に限らず、功利主義的な話(マルガン自身は「帰結主義(consequentialism)」を好んで使います)で最も活躍している論者の一人なので、今後もっと紹介されたり翻訳されたりすると思います。マルガンはやや例外的な存在ですが、世代間正義論の最近の議論の傾向としては、あまり原理的な話をするというよりは、現実の制度のあり方との関係を強く意識している感じが強いです。これはグローバル・ジャスティスも同様の傾向がありそうに思います。
 
 他はまあ正直いろいろでして、80年代のリベラル・コミュニタリアン論争を部分的に引き継ぐ形での多文化主義っぽい話や、あるいは西洋中心主義的な議論の伝統を反省して、アジア的な伝統に着目するようなものもいろいろ活発になされています。いずれもかなり(文化的)文脈重視の議論というところはあります。その一方、より原理的な正義論でいうと、英米では功利主義の猛烈にテクニカルな議論がいっぱい積み重ねられている印象です(なんかもうそればっかりじゃないかという勢い……(-_-;))。いずれの方向もなんというか、包括的な世界観対立みたいな派手な話が影を潜めるようになって、スター不在な感じで、ちょっとロールズ『正義論』以前の状況に似てきているような気もします。どこかでブレークスルーが起これば楽しいですが、さてどうなることか。
 
*1 その他、日本語で読めるものには、グローバル・ジャスティスの包括的な論考として、伊藤恭彦『貧困の放置は罪なのか――グローバルな正義とコスモポリタニズム』(人文書院、2010年)、リベラル・ナショナリズム論からのアプローチとして白川俊介『ナショナリズムの力――多文化共生世界の構想』(勁草書房、2012年)など。どういった議論があるかざっと理解するには、英語ですがスタンフォード哲学辞典の以下の項目など。
 http://plato.stanford.edu/entries/international-justice/
*2 こちらの問題設定や議論状況は私の論文や、そこで紹介しているいろいろな文献を参照いただければ幸い。スタンフォード哲学辞典にも項目がありますが、この10年ぐらいでたくさん出たものがあまり反映されていないのでちょっと不満あります。いやいや自分でちゃんと本にまとめるべきなんですが……。
 http://plato.stanford.edu/entries/justice-intergenerational/

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hyuntaro@hyuntaro