保守主義と呼ばれる(自称される)思想についてはどう評価されていますか。またキムリッカの現代政治理論を初めとして、現代政治哲学では保守主義が他の思想と対等に並ぶものとして大きく扱われて真面目に検討されている事が少ないように見えます。この理由は保守主義があまりに粗野な思想だからなのか、共同体主義(意味内容によってはリバタリアニズムにも?)に含まれていると理解されているからなのか、そもそも私の誤解なのか、その他なのか、どれなのでしょう。

 保守主義というとちょっと括りが大きすぎるというか、大きな傾向というぐらいで、それ自体として体系的な思想とは扱いづらいからではないでしょうか。ご指摘の通り、共同体論やリバタリアニズム、場合によってはリベラリズムや共和主義の一要素として扱われることはありますし、あとは思想家個人の研究にならざるをえないのかな、と思います。
 法哲学ではもともと保守主義的な伝統が高く評価されておりまして、特に1980年代~にはそうした発想を扱った研究書や翻訳がいくつも出されています。すぐ思いつくところだと、
 井上達夫『共生の作法――会話としての正義』(創文社、1986年): オークショット
 嶋津格『自生的秩序――F・A・ハイエクの法理論とその基礎』(木鐸社、1985年): ハイエク
 マイケル・オークショット『政治における合理主義』(勁草書房、1987年): 多くの法哲学者が翻訳
 桂木隆夫『自由と懐疑――ヒューム法哲学の構造とその生成』(本鐸社、1991年): ヒューム
などがあります。こうしたものはおおむね、設計主義的な発想に対置する形で保守思想を位置づけ、秩序形成における慣習/規約(convention)の役割を重視しつつ、それをリベラルな法・政治理論に組み込んでいこうといった傾向を持っているとまとめられそうです。
 ほか、最近だと共和主義や共同体論の研究書も多く刊行されており、この中にも保守主義的な発想は多くあるのではないかと思います。
 佐伯啓思・松原隆一郎編『共和主義ルネサンス――現代西欧思想の変貌』(NTT出版、2007年)
 小林正弥・菊池理夫編『コミュニタリアニズムのフロンティア』(勁草書房、2012年)
などといったところ。この両書は狭い括りでの「共和主義」「共同体論」を扱うというよりは、現代政治哲学のいろんな潮流をかなり幅広く取り上げており、保守思想の現代的可能性を考える上では最良の出発点ではないかと思います。
 ここでは法哲学者・政治哲学の研究者の著書・編著をあげていますが、他分野や一般レベルではそれこそたくさん出ています。体系的な形ではなかなか扱いづらいけれども、保守主義的な思想を実質的に取り上げているものは相当に多い、といったところでしょうか。ここに出てきてない人だと、レオ・シュトラウスとかはネオコンとの関係はどうかとかいった関心もあり、ここしばらく流行していた感じです。
 
 あちらの教科書というかアンソロジーみたいなもので、ちょっと手元にある Robert E. Goodin, Philip Pettit & Thomas W. Pogge (eds.) 'A Companion to Contemporary Political Philosophy (2nd),' Wiley-Blackwell, 2007 を見てみると、Anthony Quinton が "conservatism" の章を担当しています。クィントンの分類によると、保守主義というのは「伝統主義(traditionalism)」「懐疑主義(scepticism)」「有機体論(organicism)」の三特徴を持ち、急進的な政治的変革を嫌い、ファシズム、権威主義、エリート主義などとは違う、とかいった説明がなされています。とはいっても保守主義は「理論」に対するアンチという性格が強く、体系的には扱いにくいことが強調されていまして、あとはもうバークその他、個別の著作を読んでくれという感じですかね。教科書的な説明としては他のものもだいたいそんな感じで、まあそう書かざるをえないだろうという印象です。

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