ハーバーマスの「理想的発話状況」については殆ど悪口しか聞いたことがないのですが、逆により洗練させた形で「この方が理想的かつ現実的で説得的だ」と類似の理想や概念を継承・展開している論者はいないのでしょうか。

 ハーバーマスのこのアイデアは次の2つに分けることが必要かと思います。
 ①理想的発話状況
 ②真理の合意説(収斂説、規約説)
 ハーバーマス自身のこうした議論は前期に属するもので、最近?は主張を弱めているというか、いずれにもあまり強く乗っかった議論はしなくなっているようです。
 ①は手続的正義論の文脈でロールズなどと比較されながら論じられていますし、あるいは(熟議)民主主義の成立条件として、こうした「理想」「理念」はどこまで必要かといったこともいろいろです。たとえば、民主的政治過程における「言論の自由」の根拠論とか、いかなる条件を整えればそれを保障したことになるかとか――そして、そうすることが最終的な決定にどこまでの正統性を与えうるか、などなど。というかそれぐらいになると一般的な話すぎて、ハーバーマスとあんまり関係なくなっている。
 ②は真理論としてどういう立場をとるかという話で、いろいろ批判はありますが、根本的に覆すことができる話でもないのでまだまだ議論されていくと思います。分析哲学系の大物だと、「内在的実在論」期のヒラリー・パトナム*1(やクリスピン・ライト?)などが最も有力な議論を展開していたかと思いますが、その後もいろんな論者が参加しているのでちょっとまとめにくいです。というか、カッコして(収斂説、規約説)とあっさり書いているのも本当は微妙で、真理は本当に収斂するようなものなのか(というか収斂って何?)、それをどこまで理念的なレベルで考えるべきなのか、あるいはもっと現実に引き寄せて、共同体の慣習=規約(convention)として考えるべきなのか、などなど、もういろいろ。
 結局のところ、①②をセットにしたために強い主張になりすぎたわけで(そこにハーバーマスの独自性があったともいえます)、分ければ現在でも十分に擁護可能な立場でしょう。あくまで①②セットで頑張っている論者がいるかというと、あまりハーバーマスまわりをフォローしてないのですぐには思いつきません。こういう大きな話してる人っていまどき誰かいるかな。

*1 Hilary Whitehall Putnam, 'Reason, Truth, and History,' Cambridge: Cambridge University Press, 1981 (野本和幸ほか訳『理性・真理・歴史 : 内在的実在論の展開』、法政大学出版局、1994年)

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