日本において、実定法学(憲法、民法、刑法など)は、法哲学(ロールズ以降の正義論や、ハート以降の法解釈論など)をどのくらい踏まえたものになっているのでしょうか。感覚的には両者の間にかなり溝を感じるのですが。

 憲法だともともと法・政治哲学と研究テーマがかなりの程度に重なっていますので、そういった論者も普通に読まれているというか、研究対象そのものになっていますね。特にドイツ・フランス系の法哲学だと、憲法学者による紹介のほうが先になされることも多くなっています。
 ただ最近は憲法でも、そういった政治哲学的な大きな話よりは、憲法訴訟論を中心とするかなりテクニカルな話が多くなってきたかな、という印象はしています。ロースクールができた影響も大きいのかもしれません。しかしそういう文脈でもドゥオーキンはよく引かれますし、意外に思われるかもしれませんがマイケル・サンデルもよく出てきます。といってもサンデルのほうは共同体論とか「白熱教室」といったあれではなく、『民主政の不満』でのアメリカ憲法論への言及がほとんどです。かなり明快な「史観」を提出しているので、批判的に取り上げやすいといったところがありますね。ドゥオーキンの場合は『法の帝国』その他の法哲学バリバリの著作もけっこう引かれますが、それでも中心は『自由の法』のようなアメリカ憲法研究になります。
 他の実定法だとどうだろう。ハート、ロールズ、ドゥオーキンあたりだと多くの方が読んでいらっしゃいますね。たとえば民法の内田貴先生はドゥオーキン『法の帝国』を最初期に紹介されていますし*、『契約の再生』ほかで展開されている「関係的契約理論」はアメリカでの共同体論的な思潮がかなりの程度にベースにされています。あと、リチャード・ポズナーをはじめとする「法と経済学」は民法や商法の研究者も多く取り組まれているので、そこでの接点もあります。
 刑事法だと伝統的にドイツ系の法哲学がよく参照されていますが、最近だと、刑事政策学などのほうでアメリカの犯罪社会学の研究(「割れ窓理論」とかそういう)の参照が増えていて、そことたとえばアーキテクチャ論などとの絡みで現代の英米の法哲学との接点もできてきて、面白いところだと思っています。他にも国際法でのいろいろとかありますが、キリがなくなってきたのでとりあえずこれぐらいで。「意外といっぱいある!」というまとめでひとつよろしくお願いします。
 
* 内田貴「探訪「法の帝国」(1)(2)」法学協会雑誌105巻、1988年

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