法律を勉強する上で注意しなければならないことは?

.初学者の段階では、数学の受験勉強をするような感じで取り組むとうまくいくと思います。数学というのはいろいろな定理など「使っていい道具」が決まっているわけですね*1。まずはそれを覚えて、問題の中身を細かく場合分けしながら、それぞれに使える定理を当てはめて解いていくわけです。法律問題も基本的には同じで、条文や判例、学説など、使っていいセットが(ある程度)決まっています。まずはそれを覚えて、問題になっているケースにどこまで使えるかを場合分けしながら当てはめをして解いていくことになります。最初の暗記の部分はちょっとしんどいとは思いますが、なにごとも「道具」を揃えるのは基本ですので、がんばってみてください。
.そして注意してほしいのは、「使っていい道具」以外のものは使ってはいけない、ということです。どういうことかというと、法律を学びたいと志した人はだいたい、これこれの社会正義を実現したい、といった目標を持っているのではないかと思います。それ自体はすばらしいことなのですが、そういう正義感をいきなり問題に当てはめても、法律問題では無意味なことになってしまいます。数学の問題だったら正義感(?)を外から持ち込む人はいないと思いますが(たとえばここの x は 0 である「べき」だ、とか)、法律だと無意識にそれをやっちゃう人が多くて、そのせいで何が求められているかをうまく読み取れなくなったりすることがあるんですね*2。法律問題というのは、使っていい道具をうまく当てはめていく力が問われるものなので、「自分の意見」は聞かれていない、むしろかえって余計、ということになります。うまいこと「自分を殺す」のが法律学の出発点なんですね*3。このあたりを私は「if節を使いこなす力」というふうに考えていますが、それについては↓をご覧ください。学生さんだと「ロールプレイングする力」といったほうがわかりやすいかもしれませんね。ゲームの登場人物を演じる力、です。
http://ask.fm/tkira26/answer/108261420775

.もちろん、いろいろな正義感をもって法律を勉強するのはいいことですし、やがて法律家になったり、その他のお仕事で法的な思考力を使う場合には、そういった目標なしではやっていけないことも多いでしょう。しかし、ポイントはそういった価値観をそのままに表現するのではなく、法律という形式的な言葉によって表現できるようになることです――それによってこそ効果的に「伝わる」場合も多い、というのが法学の知恵といえます。法律の勉強の最初で「自分を殺す」のは、いつかそういったことができるようになるための練習であると考えてください。

*1 大学に入ってから学ぶ数学はまた別物であると考えたほうがいいです。
*2 ここで悩んでしまう人は残念ながら一定の割合でいるようです。ある程度は練習でどうにかなると思いますが、向き不向きがかなり強く出るようですので、どうしてもの場合は履修計画や将来の進路を柔軟に考えなおすようにしてみてください。法学部で勉強するのは狭義の法解釈学ばかりではありませんし、いろいろな希望に対応できるだけの包容力が意外にあるものです。
*3 これは法哲学でも基本的には同じです。それぞれの「正義」を正面からぶつけ合っているために、なんでもありの自由な議論に見えるかもしれませんし、実定法科目と比べたら確かにその自由度は高いとはいえますが、そうはいっても、その問題についてこれまでどんなふうな議論がなされてきたか、という文脈抜きで議論してもあまり生産的なことにはなりません。演習とかで法哲学の議論をする場合、たいていはいきなり自分の意見を言うというよりは、まずはそこで扱われているテキストの著者に「なりきって」どこまで面白いことが言えるか、というロールプレイングの練習をすることが多いはずです。それは結局のところ、上で述べたような法律学の学習と同じことにつながります。

View more

hyuntaro@hyuntaro