もし国家が死者を罰することが可能であったとしたら,自殺もまた犯罪になるのでしょうか。

.自殺の刑法上の位置づけについてはいろいろ議論がありますけど*1、本人の犯罪になるという主張は現在はないと思います。簡単にいえば、もし死にきれなかった場合に未遂罪として罰されるか、もう一度自殺を試みるかというのはあんまりだという話ですね。そして、自殺が既遂になってしまえばもう本人を罰することはできないので意味がない、といったところです。
.しかしこの「本人を罰することはできない」というのも疑おうと思えば疑えます。たとえば、刑法230条の2は死者に対する名誉毀損について定めていますが、この保護法益が何なのかはなかなか難しい。遺族感情とかにすると遺族がいない場合はOKになって都合が悪いので、死者そのものの法益を何かしら考えるわけですね。「死者の残存する人格権」だとか、ちょっと不思議な言い回しがなされるんですが、とにかく現行の刑法上、死者も保護される地位にあるといえます。
.そして逆に、刑罰を課される対象とすることも別に法技術的には難しくありません。具体的にどんな刑罰が可能かというと、まさに死者の名誉が保護すべき対象と考えられている以上、それを刑罰の対象とすることもできるでしょう。たとえば、裁判所が死者の名前を公表して非難を表明するとかいったことが考えられます。それによって「自殺は悪いことである」という社会規範を確かめるなどの効果はあるかもしれませんが、日本は死者に鞭打つのを嫌う文化もありますし、先に述べたように未遂者を追い詰める問題もあるのであまりメリットはなさそうに思います。

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*1 橋本正博「自殺は違法か」、一橋法学2巻1号、2003年
http://hermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/handle/10086/8780

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