ソファに座ることは許されていない。冷えたフローリングは月山の尻には硬すぎた。いたずらに金木の足の指に触れると寝返りを打たれて、それは遠くへ行ってしまった。 「つれないな、カネキくん」 寂しいよ僕は。演技かかった物言いにも返事はない。ページを繰る音だけが静かな室内に響いた。 ああそうだ。金木が振り向いた 「月山さん、お誕生日おめでとうございます」 そう言うと金木は手のひらの絆創膏を剥がした。そのぱっくりと開いた手のひらの裂け目から滴る金木の血液を、フローリングを這いずり月山はまるで天啓のようにくちびるで受け止める。味わう歓びに震える喉からは言葉はおろか吐息さえ漏れもしない。いやしい犬のようにくちびるについた血まで舐めとった。 「…ご馳走様は?」 「Tu as une grande place dans mon coeur…」 「確かフランス語にはご馳走様という言葉はありませんよね」 口の中に広がる香しさは発酵してもいないというのに酩酊感をもたらした。この言葉の意味を、果たして金木は調べるだろうか。 (※Tu as une grande place dans mon coeur:僕の心は君でいっぱいだ)